リアルに再現される苦闘の2ヵ月半
アメリカでは政府高官が政策決定の回顧録を書くよき伝統がある。大統領から国務長官、財務長官、さらにFRB(連邦準備制度理事会)議長まで、さまざまな立場の人物が回顧録を残している。最近では、クリントン元大統領が2004年に『マイこフイフ』と題して出版。今年11月のブッシュ前大統領の場合には『ディシジョンーポインツ』という表題だった。財務長官ではロバート・ルーピンが『ルーピン回顧録』を書いている。
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ブッシュ前大統領は、回顧録を執筆した動機を「本書がこの時期のアメリカ史を研究する人の資料となることを願って」としている。政策決定者が、どのような意図と思いで政策を決定したのか書き残すことは、政策担当者の責務といえる。ただ、すべての回顧録が歴史家の評価となるわけではない。たとえば、アラン・グリーンスパン前FRB議長の『波乱の時代』と題する回顧録は、誰もが知りたいITバブルや住宅バプルに対する言及が少なく、読者をがっかりさせるものであった。
人は冬の木々を書いた
その中で、本書は読者の期待に十分に応え、歴史の評価に堪える第一級の回顧録である。本書の特徴は、リーマンブラザーズ破綻から始まる金融危機の背後で政策決定者がどう判断し、どう行動したかを詳細に記述したドキュメントであることだ。まさに未曾有の金融危機に直面し、瀬戸際に追い込まれた財務省とFRBが、大恐慌の再来を防ぐために何をしたかを、政策の当事者が日記風に詳細に記録した実録である。絶望的な心情も吐露
sparknotes "誰もが非常にどのように町に住んでいた"
記述は2008年9月4日の朝から始まる。ポールソン長官がブッシュ大統領に会い、住宅市場の崩壊で危機に面した住宅金融会社のファニーメイとフレディマックの救済について説明する。そして、08年11月19日で、本書は終わる。この日、ポールソン長官はブッシュ大統領を訪ね、最大の金融機関シティグループが破綻の瀬戸際にあることを説明する。大統領は「これまでに実施した政策によって金融機関の動揺が収まったものと考えていた」と、動揺を隠せなかったという。
本書の最大のハイライトは、リーマンブラザーズ破産申請に至るまでのドラマである。なんとしても同社の破綻を避けようとする必死の努力は、バークレイ銀行が同社の買収を断念して打ち砕かれる。英財務省が買収を認めなかったのである。長官は「イギリス政府に一杯食わされた」と、怒りよりも焦燥から口走る。もはや同社を誰も救済する当てがなくなったとき、長官は妻に電話をかけ、「金融システムが崩壊したらどうなるのだろうか。恐怖で胸が詰まりそうだ」と、絶望的な心情を吐露する。重大な責務を負った責任者の心情が至る所に語られている。
スタッフの協力があったとはいえ、記されている状況は極めて具体的で、関係者の言葉がリアルに再現されており、下手なビジネス小説をはるかに凌駕する臨場感に満ちている。
金融危機は去ったかのように思われる。著者は、自らの体験から、再び金融危機が起こることを阻止するための四つの提言を行っている。それは傾聴に値する内容である。本書は金融問題や金融危機の研究家にとって必読であるだけでなく、金融とは無縁の一般読者にも十分に楽しめる本である。
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